「その声、本当に家族の声ですか?」——生成AIの進化は、便利さだけでなく、詐欺の手口にも新しい変化をもたらしています。全3回のシリーズで、AIが関わる詐欺の実態と、家族を守るための対策を見ていきます。
過去最悪を更新し続ける特殊詐欺
警察庁の発表によると、2025年(令和7年)の特殊詐欺の認知件数は27,758件、被害額は1,414.2億円にのぼり、いずれも過去最悪を記録しました。中でも注目すべきは、犯行に利用された電話番号のうち国際電話番号が92,996件と、前年から95.4%も増加し、全体の75.5%を占めている点です。
詐欺の入口の約8割は、今も昔も「電話」です。ここに、生成AIという新しい要素が加わってきています。
AIが変えているのは「本物らしさ」の精度
これまでの詐欺電話は、声の様子や話し方の不自然さから「あれ?」と違和感を抱くきっかけがありました。しかし生成AIの音声合成技術が進化したことで、その違和感に頼った見分け方が、通用しにくくなりつつあります。
海外の調査機関の報告では、わずか数秒〜十数秒程度の音声サンプルがあれば、本人にかなり近い声を再現できるとされています。実際に、家族の声そっくりの電話で「事故を起こした」「今すぐお金が必要」と告げられ、慌てて振り込んでしまった、という被害の報告が国内外で増えています。
電話だけじゃない:ビデオ通話にも
警察庁は近年、ビデオ通話を悪用した「ニセ警察詐欺」について、繰り返し注意を呼びかけています。警察官や検察官を装った相手とのビデオ通話で不安をあおられ、金銭を要求されるという手口です。
被害額で最大級:著名人なりすまし型の「詐欺広告」
そして今、金額の規模でもっとも深刻なのが「SNS型投資詐欺」です。SNSやネット上の広告に、経済評論家や著名な投資家、タレントなどの画像・動画を無断で使った「必ず儲かる」という投資の誘い文句が表示され、クリックした先でグループに勧誘され、お金をだまし取られるという手口です。
警察庁によると、2025年のSNS型投資詐欺の被害額は1,288億円で、前年から47.9%増加。2026年に入ってからはさらに加速しており、5月末時点で前年同期の約2.5倍にあたる700億円に達しています。特に2025年7月以降、著名人の画像や動画を無断使用したバナー広告をきっかけとした被害が急増したと報告されています。
これも、生成AIが「本物らしい画像・動画を作るハードルを下げた」ことが背景にある詐欺のひとつです。事態を受け、政府もプラットフォーム側への働きかけを本格化させています。
2026年8月7日、デジタル庁は警察庁・金融庁・消費者庁・総務省・法務省・経済産業省と合同で、Google、LINEヤフー、Meta、TikTok、X Corpという主要プラットフォーム事業者5社に対し、なりすまし詐欺広告への対策強化を文書で要請しました。要請の柱は3つです。
- 広告主への本人確認の徹底(マイナンバーカードや商業登記電子証明書といった電子的な認証手段の活用を含む)
- 広告の透明性向上(広告主の情報や、生成AI技術を用いた広告である旨を利用者が確認できるようにする)
- 削除要請への迅速な対応の徹底
各社には、具体的な取り組み内容を2026年10月16日までに、その実施結果を2027年3月16日までに報告することが求められています。著名人になりすまして虚偽の投資実績を紹介する行為は刑法161条(偽造私電磁的記録文書等行使の罪)等に抵触しうるとして、インターネット・ホットラインセンターのガイドラインも同時期に改定され、違法情報として明記されました。
なぜ今、急速に広がっているのか
専門機関の分析では、こうした詐欺を支えるAIツールの多くが、無料で、専門知識がなくても、匿名で使えるようになっていることが、被害拡大の背景として指摘されています。
次回予告:家族を守る、今日からできる対策
出典:警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」、デジタル庁「SNS等におけるなりすまし詐欺広告に関する対策強化のための7府省庁合同要請の実施」(2026年8月7日)

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